柔道整復師科 担当
小関 孝男先生
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「柔道整復師と整体師って何が違うの?」
「仕事内容にはどんな違いがある?」
「どちらを目指すべき?」
スポーツ分野や介護分野の進路を考えている人の中には、このような疑問を持っている人もいると思います。「どちらも人の体の不調を治したりする仕事だから同じじゃないの?」と思っている人もいるでしょう。
結論から言うと、整体師は特に資格が必要ないのに対し、柔道整復師になるには国家資格が必要という大きな違いがあります。そして、柔道整復師でなければできないこともあるため、あなたが将来やりたいことによってどちらを目指すべきか慎重に見極める必要があります。
そこでこの記事では、柔道整復師専任教員として10年の教育指導経験があり、接骨院やスポーツ現場での活動実績もある小関孝男先生の監修で、柔道整復師と整体師の具体的な仕事の違いに加え、
などを解説していきます。最後まで読めば両方の仕事の違いが明確になり、あなたが柔道整復師と整体師のどちらを目指すべきか判断できるようになるでしょう。
柔道整復師と整体師の最も明確な違いは、柔道整復師になるには国家資格が必要であるのに対し、整体師になるには公的な資格は特に必要ないという点です。
柔道整復師と整体師はどちらも人の体のケアをする仕事ですが、柔道整復師の資格を持っている人にしかできない施術があります(2章で詳しく解説します)。また、資格がない人は「柔道整復師」を名乗ることもできません。
一方で、整体師に関する公的な資格は特にないため、無資格でも「整体師」を名乗ることができます。
つまり、柔道整復師は国家試験に合格する必要がありますが、整体師よりも携われる仕事の範囲が広いということになります。
柔道整復師と整体師の仕事を比較すると、できることには以下のような違いがあります。
柔道整復師が できること |
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整体師が できること |
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柔道整復師にできるのは主に以下のような仕事です。
身体の構造を理解した上で、捻挫、脱臼、骨折などのケガを手術せずに回復に導く治療をします。具体的には外れた関節を手で元に戻したり、骨折した患部を適切に固定したりします。これらの治療法は柔道整復術と呼ばれ、柔道整復師の代表的な仕事の一つです。
身体機能が衰えてきた高齢者に対して、起床や歩行などの日常的な動作に支障が出ないよう、筋力や関節の機能を維持・改善するための指導をします。病気やケガで身体機能に障害を受けた人にも同様のサポートを行います。
骨折や脱臼などのケガに対して、ギプスや包帯で固定するなどの応急処置を行います。
ただし、応急処置以外の施術は医師からの同意がなければできません。
整体師にできるのは主に以下のような仕事です。
肩こりの解消や疲労回復を目的として、体のもみほぐしを行います。一般的にはマッサージとして認識されていますが、法律上は「マッサージ」と呼ぶことができないため、整体師が行う施術は「もみほぐし」や「リラクゼーション」と呼ばれています。
*法律上の「マッサージ」は、国家資格である「あん摩マッサージ指圧師」しかできません。
施術を受けた人が健康を維持できるように、日常生活で気をつけるべきことや自宅でできるストレッチなどのアドバイスをします。施術自体は数十分~1時間程度ですが、アフターフォローは患者さんのその後の生活に長く影響するものなので、重要な仕事の一つです。一人ひとりの症状に応じて、適切にアドバイスすることが大切です。
ここで紹介したような柔道整復師の仕事を整体師が行うことは法律で禁じられています。全体的に、柔道整復師の方が仕事の幅が広いと言えます。
柔道整復師と整体師の2つの職業について、なるまでの流れや給料などの違いをそれぞれ比較します。
柔道整復師 | 整体師 | |
---|---|---|
なるまでの流れ | 高校卒業後、最低3年学んで国家試験に合格する | 高校卒業後、スクールなどに通う |
必要な資格 | 柔道整復師(国家資格) | 特になし |
活躍できる フィールド |
・接骨院 ・整形外科 ・介護施設 ・スポーツの現場 など |
・整体院 ・リラクゼーションサロン など |
給料 | 年収350万円程度〜 | 年収250万円程度〜 |
将来性 | ニーズ増加傾向 所定の実務経験で独立開業も可能 |
ニーズ増加傾向 パーソナルトレーナーなどとして独立の道も |
前述の通り、柔道整復師になるには柔道整復師資格(国家資格)が必要です。受験資格は厚生労働省のサイトに記載がありますが、要約すると「国が認定した柔道整復師養成課程のある教育機関で3年以上学修すること(見込みであること)」です。
つまり、高卒では就職できず、柔道整復師について学べる大学・短大・専門学校のいずれかに進学する必要があるということです。
整体師もある程度の専門知識や技術が求められる仕事なので、整体について学べるスクールなどに通ってから整体院などに就職するのが一般的です。スクールの期間は数か月~1年程度であることが多いようです。
整体師には特定の資格が必要ないため、高卒後すぐに就職して働くことも理論上は可能ですが、未経験者の求人は多いわけではありません。基本的にはスクールに通ったり、通信教育を受けたりすることが前提と考えておいた方がよいでしょう。
柔道整復師資格が必要です。柔道整復に必要な知識を大学や専門学校で学び、技術を身につけたことの証明になります。
特定の資格は必要ありませんが、以下のような資格を持っていれば就職が有利になったり、業務に役立つ可能性があります。
・メディカルトレーナー (国際ホリスティックセラピー協会)
・整体セラピスト検定(日本セラピスト認定協会)
柔道整復師が活躍できるフィールドは主に以下のようなところがあります。
など
このほか、独立して接骨院を開業することもできます。
整体師が活躍できるフィールドは主に以下のようなところがあります。
・整体院
・リラクゼーションサロン
など
独立して整体院を開業したり、スポーツや介護・福祉の現場で働いたりすることもできますが、ケガの治療をはじめとする医療的な行為は行うことができないなど、仕事の幅は限られます。
柔道整復師の給料は勤務先によって異なりますが、厚生労働省の統計や求人サイトの情報を総合すると、一般的な接骨院などに勤務する場合、
月給25万円前後、
年収350万~400万円程度
と推定されます。東京や大阪などの大都市圏ではさらに1割程度高くなる傾向にあります。スポーツトレーナーとして働く場合や、独立開業した場合はさらに高収入が見込める可能性もあるでしょう。年収1000万円を超えるケースもあるようです。
(参考)令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況(リンクhttps://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/)
整体師についても勤務先によって差がありますが、求人サイトの情報などから、一般的な整体院などに勤務する場合、
月給20~25万円前後、
年収250万~350万円程度
と推定されます。柔道整復師と同様に、独立して開業したりパーソナルトレーナーとして働いたりする場合はさらに高収入が見込めます。
柔道整復師のニーズは現場を問わず高まっており、人数も年々増加傾向にあります。厚生労働省の調査によると、2019年末時点の柔道整復師の数が73,017人だったのに対し、2020年末時点では75,786人と、1年で2,769人(3.8%)増加しています。
柔道整復師の数は増えているものの、接骨院は飽和状態にあるため、近年では整形外科や高齢者施設、スポーツ現場などで活躍する人が増えています。特に人手不足が課題となっている介護・福祉の現場では常に高いニーズがあります。
キャリアアップのモデルケースとしては、接骨院や介護・福祉の現場で数年~十数年経験を積んだあと、アスレティックトレーナーなどに転職する道などがあります。実務経験を3年間積み、所定の研修(2日間)を受けると独立して開業することもできます。
整体師については具体的なデータがありませんが、こちらも現場ニーズの高まりに伴って人数が増加していると推測されます。
柔道整復師と比べて2~3年早く働き始めることができるため、現場経験を積んで早い段階にパーソナルトレーナーなどとして独立する人もいます。また、しばらく働いてお金を貯めてから学校に通い、柔道整復師の資格を取る人もいます。
ここまでに解説した内容を踏まえ、あなたにとって柔道整復師と整体師のどちらが向いているか判断するためのポイントを紹介します。
柔道整復師の方が 向いている人 |
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整体師の方が 向いている人 |
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柔道整復師の方が向いているのは以下のような人です。
1つは、高校を卒業したあと、進学するための時間的・経済的余裕がある人です。3-1で解説したように、柔道整復師試験を受験するには、大学や専門学校などで少なくとも3年以上勉強する必要があるからです。また、3年分の学費も必要になります。例えば、3年制専門学校の3年分の学費はトータルで500万円程度です。まずはこの時間面と経済面の2点について問題ないか、保護者の人と話し合っておきましょう。
もう1つは、人体の構造や機能、公衆衛生などに関する専門知識や技術を学校で学んで身につけてから働きたい人です。繰り返しになりますが、柔道整復師になるためには学校で3年以上学ぶ必要があります。裏を返せば、実際に現場で働く前に、しっかりと時間をかけて知識を吸収し、技術を身につける機会があるということです。
将来的な活躍の場を広げたい人も柔道整復師の方が向いていると言えます。柔道整復師の資格がある人は、スポーツ分野など幅広い現場からもニーズが高いからです。例えば、アスレティックトレーナーとして柔道整復師の資格を活かし、アスリートの安全・健康管理やスポーツ活動中の外傷・障害予防のほか、ケガが発生した際、医療資格者に引き継ぐまでの救急対応などを行っている人もいます。
柔道整復師ではなくてもアスレティックトレーナーになることは可能ですが、資格がない場合はケガに対する治療行為ができないなど、仕事が限られてしまいます。様々な現場で幅広く活躍したい人は柔道整復師資格を取得しておくべきでしょう。
整体師の方が向いているのは以下のような人です。
・高校卒業後、なるべく早く就職して現場経験を積みたい人
・試験に抵抗や苦手意識がある人
1つは、高校を卒業してからなるべく早く就職して現場経験を積みたい人です。前述の「なるまでの流れ」で説明したように、早ければ高校卒業後、数か月~1年程度で整体師として働き始めることが可能だからです。「実践的な技術は場数を踏んで磨いていきたい!」という人は整体師の方が向いていると言えます。
試験に抵抗感や苦手意識がある人も、どちらかといえば整体師の方が向いていると言えます。繰り返すように、柔道整復師を目指す場合は国家試験に合格する必要がありますが、この試験の難易度がそれなりに高いものだからです。
試験は計250問の筆記(マークシート)式で、幅広い知識が問われます。しかも、毎年3月の年1回しか行われません。2023年の試験は受験者総数4,521名、合格者数2,244名と、合格率は約49.6%*にとどまっています。万が一合格できなかった場合は、次の年まで柔道整復師になることはできないのです。
もちろん苦手意識があっても挑戦するというマインドは大切ですが、どうしても難しそうだと感じる人は最初から整体師を目指す方がよいかもしれません。
*(出典)第31回柔道整復師国家試験 学校別合格者状況(リンクhttps://e-shugi.jp/wp-content/uploads/2023/03/81d5984f6debb6080adbe8f79c2474ce.pdf)
この記事で紹介した内容をまとめます。
柔道整復師が できること |
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整体師が できること |
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柔道整復師 | 整体師 | |
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なるまでの流れ | 高校卒業後、最低3年学んで国家試験に合格する | 高校卒業後、スクールなどに通う |
必要な資格 | 柔道整復師(国家資格) | 特になし |
活躍できる フィールド |
・接骨院 ・整形外科 ・介護施設 ・スポーツの現場 など |
・整体院 ・リラクゼーションサロン など |
給料 | 年収350万円程度〜 | 年収250万円程度〜 |
将来性 | ニーズ増加傾向 所定の実務経験で独立開業も可能 |
ニーズ増加傾向 パーソナルトレーナーなどとして独立の道も |
柔道整復師の方が 向いている人 |
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整体師の方が 向いている人 |
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あなたにとって柔道整復師と整体師のどちらが向いていそうかイメージが湧き、進路が見えてきましたか?
あなたの理想の将来像に向かって、準備を始めていきましょう!
記事監修
柔道整復師科 担当
小関 孝男先生
高校卒業後、東京YMCA社会体育・保育専門学校のスポーツトレーナー科に入学し、トレーナーとしての知識・経験を積む。卒業後は接骨院に勤務しながら陸上選手を中心にトレーナー活動を行う。その後、東京メディカル・スポーツ専門学校の柔道整復師科を卒業し、柔道整復師の資格を取得。以後、母校の専任教員として後進の育成にあたり、日々学生指導を行っている。